【本を読んで】動機ある推論のメタ認知の必要性

人は信じたいことを何としてでも信じたがる。

人は信じたくないことに目をつぶる。

自分だけは例外だと考えたがる。そして、それに気がつかない。

ジュリア・ガレフ/著 児島修/訳 マッピング思考 p20より

人は信じたいことが先にある。

先ほどの引用文のように、人間は基本的に信じたいことが先にあり、その信じたいことを補強するような情報を集め自分が正しいことに安心しようとする。例えば、気候変動や地球温暖化。ある人たちは(twitterとかfacebookとかで良く見ることができる)これらに懐疑的であったり、もっとひどいと陰謀論に片足突っ込んだような論理を展開している。こういった人たちは自分が信じたいこと(例えば地球温暖化は炭素税で儲けたい奴らの陰謀。など)に対して自分の意見に賛同するような情報をその根拠の妥当性を検討することなく引用して、訴えている。

ここまでひどくなくても誰しも、自分が望むような結論が書かれているまとめサイトを巡回して安心するみたいな経験があるのではないか(もしかしたらこれに関しては自分だけかも)

このような傾向は「一方的に動機のある推論(directionally motivated reasoning)」といわれる。単に動機のある推論とも言う。

policy.doshisha.ac.jp

動機のある推論については上の記事が昨今の状態においての動機のある推論の説明がされているのでぜひ読んでほしい。

では、人間の本能ともいえるその傾向はなにがいけないのか

端的に言えば、現代は選択する必要性もしくはその機会が増えてきているからである。動機ある推論では一歩先の利益(主に精神的自己防衛)を追求する。そこにとどまるよりも、もっと未来に目を向け物事を正確に見極めていく方が有益であるのは同意できるだろう。

この本で目から鱗だったこと

この本では、動機ある推論から成る「守りの思考」と対をなす形で「マッピング思考」を提案している。マッピング思考の基本知識や思考実験の実践、具体的な過去のエピソードを引っ張ってきて説明している。

そのなかでも自分が頭をレンガで殴られたような衝撃があった考え方があった。

間違いを認めるのではなくアップデートする

間違いを認めることは難しい。間違いを認めることは自分の考えを180度変えることになり、それはとても屈辱的だと考える(もしくは感じる)人は多いだろう。

間違いを素直に認めた方が生産的であることは誰しもわかっているが案外難しい。そこでこの本で提案されていたのはアップデートするという考え方だ。

「間違うこと」=「失敗」と捉えずに「新しい情報を得て考えを変える」=「間違っていることではない」と捉えるのだ。このことは本書のp273に詳しく乗っているので参照されたし。

型にはめない

既存の型にはめるのは楽である。楽であるが故、いろんな衝突が起きている。*1最近はジェンダー的な話題がこの傾向にある気がする。フェミニストはこうだからと、一般化して批判しごちゃごちゃなっているケースがついったらんどでよく見かける。

人を型にはめてみるのは認知的な面で楽であるが、それゆえに自分自身がなにか(情報)を見落としている可能性があることは肝に銘じる。

アイデンティティを軽くする

アイデンティティの獲得が発達心理学の青年期の発達課題であることは広く知られていると思うが、この本ではアイデンティティについてもある考察をしている。

心理学辞典(1999)による定義は、 「『自分は何者か』『自分の目指す道は何か』『自分の人生の目的は何か』『自分の存在意義は何か』など、自己を社会のなかに位置づける問いかけに対して、肯定的かつ確信的に回答できること」 である。

ja.wikipedia.org

結論から言うと、"思考"がアイデンティティになることの弊害について論じていた。

宗教と政治の話(+日本では野球の話)はタブー視されているが、それらは自分のアイデンティティの一部になっている思想である。対立する話を聞かされたら自分自身を貶されていると捉えかねない。ほかにも、母乳か粉ミルクか、エディタはどれが一番優れているか、ビーガンなどなど、思考(思想)がアイデンティティになると、その対立の思想が受け付けなくなってしまう。ある考えに同意することと、それを自分のアイデンティティの一部とみなすことは同じではないことを心に留めたい。

まとめ

この本、「マッピング思考」は大まかにいえば認知の改善のための本である。

私が感じたこの本での課題は三つあり、「間違いを素直に認め、考えをアップデートする」と考えること、「人を型にはめず、なぜその行動をしたか」を考えること、「思考をアイデンティティにしない」こと、である。

すこしでも俯瞰的な考え方をしたい人にはもってこいの本だと思う。

ちなみに私はこの手の本はいたずらに人におすすめはしない。この本がその人の今の課題に必要でない時もある。必要な時に必要な本を読めばいいと思っているからだ。

そんな感じで。

*1:型はめと一般化を同一視して論じているのでちょっと根拠が薄いのは勘弁してください。